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旭屋書店銀座店で本を買う。原節子の背後にマツダビルディング。

日没後、傘をさして日比谷界隈を通り抜け、帝國ホテルの前で左折、線路をくぐってみゆき通りを直進して、旭屋書店で本を見る。本日のお目当て、扉野良人『ボマルツォのどんぐり』晶文社(asin:4794967241)をガバッと手中に収めて安心したところで、映画の本を見たりみすず書房の本や文庫本を物色したりする。あれこれ迷ったあげく、今日のところは、池田弥三郎『世俗の詩・民衆の歌』(講談社文芸文庫)とブローティガン/藤本和子訳『芝生の復讐』(新潮文庫)を買うことにする。待ち遠しかった新刊を発売日に計画していたとおりのお店で買うときはいつもとても気分がよい。気まぐれに店頭でふと思いたった文庫本をポンポンと買う快楽も捨てたものではない。心持ちよく外に出てみると、雨脚はだいぶ弱まっている。まだちょっとばかし時間があったので、オー・バカナルでカプチーノを飲んで、ひと休み。せっかくの泰明小学校の前なので、池田弥三郎を拾い読み。戦前宝塚に関する文章(もちろん戸板康二登場)を、東京宝塚劇場のすぐ近くで読むというのが嬉しいなアと、さらに上機嫌になったところで、外に出る。




銀座文化研究別冊『震災復興〈大銀座〉の街並みから』(銀座文化史学会、1995年12月)より、昭和9年11月撮影の「マツダビル夜景」。《屋上塔屋からビーコン4台が照射され、ネオンサインかイルミネーションしか知らなかった一般市民に新しい夜景を提供した》と同書にある。昭和9年9月施工の数寄屋橋のマツダビルは現在の銀座東芝ビルの北半分にあたり、阪急百貨店がテナントに入る。と、銀座東芝ビル1階の旭屋書店銀座店の残り少ない日々を思うあまりに、しつこくマツダビルの画像を貼り付けてしまうのだった。




伏水修『東京の女性』(昭和14年10月封切・東宝)より、昼休みにビル屋上に立つ自動車会社タイピスト原節子。つい先週、「マツダビルディング」とその向かいの「日本動産火災保険東京支店」の建物に心躍らせていたのだったけれども(id:foujita:20080409)、たまたま見ていたヴィデオで、屋上に立つ原節子の背後にあるのはまぎれもなくマツダビル! と気づいて、ワオ! だった。背後に見える非常階段は、先々週貼り付けた画像と同じ(id:foujita:20080404)。となると、位置からして、原節子の勤める自動車会社のビルとして使われているのは「日本動産火災保険東京支店」のとみて間違いあるまいのであった。キャー! 




上と同じシークエンス。原節子の背後にマツダビルの「屋上塔屋」が見える。『東京の女性』は、原節子が自動車会社のタイピストから一家の経済を背負うためより高給のセールスマンへと転身する、いわばキャリアウーマンもので、原節子の美貌が外国女優のような貫禄。同僚の立松晃と並んで御濠端を歩くシーン(背後に第一生命ビルと帝国劇場の遠景)のソフィスティケートぶり! などとストーリー云々よりも、原節子の貫禄と戦前東京、戸板康二が明治製菓宣伝部に入った昭和14年と同年の東京映像という点で、圧倒的にすばらしかった。見どころたっぷり。




『東京の女性』より、喫茶室で悩む原節子と慰める同僚、水上怜子。いかにも会社のビルの喫茶店という感じで登場するので、戸板康二と池田弥三郎が昭和9年に初めて対面することとなった日動画廊の「イングリッシュ・ティールーム」ではないかしら! と期待したくなるのだけれども、たぶん違う気がする。西5丁目の「日動画廊の喫茶室」について、池田弥三郎は『銀座十二章』(朝日新聞社・1965年→朝日文庫・1996年)に、《イギリス風の落ち着いた、天井の高いいい店だった。奥に中二階の静かな別室があって、一年下の学生だった戸板康二君に、初めて会ったのはここだった。紅茶はブルークボンドで、外の店が十銭の時、十五銭だった》と記している。