資生堂の展覧会を見たあとはいつも古い建物を見るのがたのしい。

朝。喫茶店でコーヒーを飲んで、ほっと一息入れる。トルストイ/藤沼貴訳『戦争と平和』第5巻(岩波文庫、2006年)を読み始める。ズンズン、ズンズンと読み進めてゆく。いわゆるトルストイの歴史哲学のところのまわりくどい言い回しが結構好きだ。『戦争と平和』読了のあかつきに、バーリン『ハリネズミと狐』を読むのが今からとってもたのしみ。とかなんとか、ズンズン、ズンズンとページを繰り、少々ダレてきたかなあというところで、ひと息入れる。今日はこのへんで本を閉じることにする。まだちょっと時間があったので、突発的に持参していた山田風太郎『人間臨終図巻』第1巻(徳間文庫)をペラペラと眺めて、気晴らし。「三十一歳で死んだ人」の園井恵子のところでつい目頭がツーンとなる。阪妻主演の『無法松の一生』のことを思い出して胸がいっぱいになり、宮川一夫のキャメラによる映像(車が回っているところとか)をあれこれ思い出して虚空を見つめているうちに、時間になった。あきらめて、席を立つ。


昼。本屋へ行く。店内に足を踏み入れてさっそく、わずかに積んである「一冊の本」が視界に入る。ガバッと手に取り、そのまま回れ右、コーヒーショップへ。「演劇界」休刊のことに言及した橋本治の文章にしみじみ感じ入っているうちに、時間になった。あきらめて、スゴスゴと外に出る。


日没時。心持ちよくウカウカと外に出て、足取り軽く並木通りを直進、銀座7丁目へと向かう。《椿会の春―60年の輝き》展開催中のHOUSE OF SHISEIDO に足を踏み入れる。実のところ本日一番のお目当ては2階の「資生堂ギャラリー―八十八年の歩み」と題するパネル展示だったのだけれど、ほんのなりゆきで見物することになった《椿会の春》展をしみじみと満喫。最初に見ることになった岡鹿之助でさっそく、絵を見るってたのしいなあと上機嫌、そして、その上機嫌はいつまでも続く。そのときの気分で、そのときどきで、スーッとしみこむ絵というのは変わるもの。今日は曽宮一念の芥子の花の絵がなんだか好きだった。あれこれ行きつ戻りつして、香月泰男の空間を眺めてスーッとなったところで、えいっと2階へ。階段の踊り場で目の当たりにする写真でさらにいい気分なのだった。


そして、そもそものお目当ての「資生堂ギャラリー―八十八年の歩み」もたいへん満喫。現在のザ・ギンザの地にあった辰野金吾設計の資生堂化粧品部の2階の「陳列場」にて大正8年に第1回の展覧会開催。そのスナップには福原路草とともに水木京太の姿も写っている! 福原信辰と三田で同窓だった水木京太は当時資生堂に勤めていたのだった。……などと、登場する固有名詞にイチイチ反応していたらキリがない、時系列にコンパクトにまとめられた資生堂ギャラリーにまつわるあれこれに思いを馳せて、目がランランになる。さてさて、本日、HOUSE OF SHISEIDO までやってきたのは、昭和16年10月の小村雪岱の一周忌追悼の展覧会のスナップには戸板康二の姿がある! ということをちわみさんが教えて下さって、こ、これは明日にでも行かねばーと思いつつ今日まで来てしまったからなのだった。と、実はほんのなりゆきで見物したのだったけど、ひさびさに HOUSE OF SHISEIDO を満喫できて本当によかった。このところすっかり熱が冷めていた資生堂あれこれにあらためて心ときめいて、いろいろと心に刻む。なにはともあれ、ちわみさん、どうもありがとう!*1


外に出てみると、すっかり日が暮れている。しばし界隈を散歩。以前、ちわみさんが戸板康二の本に登場する菅原電気(http://www.sugawaradenki.co.jp/)の建物のことを教えてくださったことがあった(ちわみさんにはいつも教えていただいてばっかり!)。時折コーヒーを飲んでいた椿屋珈琲店の建物は、戸板康二が菅原卓を訪ねていたころとまったく同じ建物なのね! と、たいそう胸が躍ったものだった。菅原卓と戸板康二がちょくちょく談笑したというユーハイムの喫茶店はどこにあったのかな、今度調べよう。と、ここに来るたびにいつも思うことを今日も思う。そんなこんなしたあと、おっとこうしてはいられないとイソイソと地下鉄の乗り場に向かって、ズンズンと歩いた。

*1:ちわみさんのブログ:森茉莉街道をゆく(http://blog.livedoor.jp/chiwami403/)とねこそぎ記念(http://blog.goo.ne.jp/chiwami403/