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浅草から東武にのって

去年の夏、越谷の図書館へ野口冨士男目当てで出かけた折に初めて浅草から東武に乗った。なぜだか妙に東武のファンになってしまって、乗る機会があるとそのたびに嬉しい。と言っても機会はそううまくめぐってくるものではない。浅草発の東武電車の何にそんなに心惹かれるのか、と思っていたら、川本三郎『東京の空の下、今日も町歩き』ちくま文庫(ISBN:4480422609)にこんなくだりがあった。

東武電車は、東京の私鉄のなかでもっとも好きなもの。とくに松屋デパートの“おなか”のなかから出てきた電車が、隅田川の鉄橋をカーブしながらゆっくりと走ってゆく姿がすばらしい。あの鉄橋のトラスト部分は、電車の窓から隅田川の水景を楽しめるように、車窓よりも低く作られている。景観を大事にする設計である。昭和のはじめに、こういう配慮がされていたとは驚く。東武が好きなゆえんである。……
松屋デパートのなかの浅草駅を出た電車はカーブしながらゆっくりと隅田川を渡ってゆく。平日の朝の下りの電車は空いていて、左右両方の窓から隅田川が見える。この風景を見るためだけでも東武電車に乗る価値がある。川が朝日を浴びて、磨かれたかガラスのコップのようにキラキラひかっている。

(東武線、京成線が寄りそう町「押上」「業平橋」「曳舟」)

うんうん、この点に関してはわたしもまったく同感だわ! と、この文章を読んだ当時、また近々浅草から東武にのってお出かけしたいものだと胸を躍らせていたものだった。そんなこんなで、ひさびさの浅草発東武電車に大喜び。


午後、浅草から東武電車にのりこむ。もはや目的は東武そのもの、だてんで、東向島駅(旧玉ノ井)で下車して、東武博物館(http://www.tobu.co.jp/museum/)へ行った。…などと東武に乗るためだけに来たという感じだった東武博物館だったのだけど、これがなかなかすばらしい施設で感服だった。入場料200円でたしかな満足。かつて、閉館間際の交通博物館にほんの気まぐれで出かけてみたら案外にもずいぶんたのしんでしまった、ということがあった。あのときの交通博物館を彷彿とさせる愉しきひとときであった。館内は行楽をたのしむ家族客で結構混み合っている。古い電車がわりとたくさん展示してあって、そのほとんどが中に入って座ることができるので、子供たちはあちらこちらに乗っては大はしゃぎ。あの日の交通博物館でみた美しき家族の肖像が、ここ東武博物館でもまったくおんなじように見ることができるのだ。あの日の交通博物館のときとまったくおんなじようにざぶーんと心が洗われるわたくしであった。博物館は、お弁当を食べる場所が用意されているという親切設計で、気分はまさしく室内遠足。ここでお弁当を食べるというテもあったのだなあと思った。……と、一通り感激したところで、さア、わたくしも東武電車を満喫するといたしましょう! と張り切って、とりあえず次々と乗り込んでみる。が、そのたびに猛烈な睡魔に襲われ、何度か本当に寝入ってしまうという醜態を演じてしまって、そのたびにヨロヨロと外に出てはうなだれる。電車にのって座席に座るとついウトウトと寝てしまうことが多い。まさしくパブロフの犬状態で眠くなってしまったようだ。と、寝てしまったのは失態だったけど東武博物館は予想をはるかに上回る充実度だった。ますます東武電車のファンになった(沿線に住みたいとはあまり思わぬが…)。


いやあ、結構結構と外に出て、テクテクと散歩に繰り出し、次なる目的地は「鳩の街商店街」。東武博物館よりも実はこちらが本日のお目当て。向島百花園に足をのばして、梅見をして、浅草まで歩いて、今日もずいぶん歩いた。浅草の喫茶店でコーヒーを飲んで、チーズケーキを食べた。ちょっといい路地裏風景を発見したところでもうそろそろ日没だ、地下鉄に乗りこんで、家に帰る。