『大菩薩峠』を見て、明治チョコレートを買い、立花左近。

フィルムセンターで内田吐夢の『大菩薩峠』の続き、今日は第二部と完結篇を続けて、見た。映画が終わって外に出てみると、とっぷりと日が暮れている。「セブンイレブン」に明治チョコレートの歴代パッケージの復刻が売っているらしいと知り、帰り、あてどなく明治製菓本社ビル界隈へ行ってみると、うまいこと「セブンイレブン」を発見、うまいことお目当ての昭和15年版パッケージと称する明治チョコレートを発見し、勢いにのって、2枚購入、計180円也。にっこり。



戸板康二の明治製菓在籍時(昭和14年から18年まで)当時のパッケージは、歴代のそれと比べると格段に赤味がかっていて、格段にはなやかなのだった。昭和初期の明治チョコレートというと、記憶にあたらしいのが、去年フィルムセンターで見た成瀬巳喜男のサイレント、『限りなき舗道』と『君と別れて』。いずれも明治製菓のタイアップ映画で、そしていずれもたいへんすばらしかった! あのスクリーンに不自然に映し出された明治チョコレートとおんなじパッケージなのかな、どうなのだろう。



先日、貼り付けたばかりの「三田文学」昭和10年5月号。表も裏も鈴木信太郎の絵が全面にあしらってあるぜいたくなつくりの「三田文学」。こちらの広告で見ることができる明治チョコレートのパッケージは今日買ってきたパッケージとおんなじだ!


夜、明治のチョコレートをカツンと折り曲げて、紅茶を飲む。「千恵蔵恋し……」と物色したら思いかげなく奥から出てきたので、マキノ正博・池田富保『忠臣蔵 天の巻・地の巻』(昭和13年・日活)の VTR を見ることにする。千恵蔵は浅野内匠頭と立花左近の二役で、大石内蔵之助は誰かしらと思ったらなんと阪妻だてんで、悠長にはじめから見ていられず、待ちきれずに立花左近と大石の対面場面まで早送りしてしまう。すると歌舞伎の『勧進帳』そのまんま、勧進帳の長唄が流れているので、大興奮。ソロリソロリと千恵蔵が入場し、待ち構える阪妻、互いにみかわす顔と顔。音楽と画面との相乗効果でクーッとむやみやたらにいつまでも大興奮。そして、わたしの大興奮に応えるかのようにこの場面、むやみに長い。去年見た東映オールスターの『赤穂浪士』がわたしにとっては初めて見る「時代劇」の忠臣蔵で、それまでは『仮名手本忠臣蔵』を知るのみだったので立花左近なる役を知ったのも『赤穂浪士』が初めてだった。一見してすでにこれは勧進帳そのものだなあと思ったものだったけど、あとになってそれもそのはず、「立花左近」はマキノ省三が『勧進帳』をあてはめてこしらえた、ということを知った。時代劇における歌舞伎の取り込みのありようというものがしみじみおもしろいと思った。それが、この『忠臣蔵 地の巻』ではそのものズバリ『勧進帳』の長唄を流して、その場面は綿々と続き、立花左近は富樫かと思ったら次第に義経にまでなって手をとってまでいるなんて! それから時代は進み、いつのまにか立花左近は勧進帳から脱却して「時代劇」の忠臣蔵のお決まりとして受け継がれていったということなのだなあ。すばらしきかな、日本映画史。……などと、ひとりでブツブツと興奮はいつまでも続いて、いろいろな意味で過渡期の、戦前の時代劇がわたしはやっぱり一番好きだなあと、阪妻と千恵蔵の顔面に見とれながら(何回も同じシーンを再生)、強くうなずいた、明治チョコレートをかじりながら。甘味。