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野口冨士男『風の系譜』届き、大村彦次郎『文士のいる風景』を買う。

寝床から手をのばしラジオのスイッチを入れるとちょうど天気予報、今日はよいお天気で洗濯にもってこい、とのこと。スクッと起き上がり洗濯を開始して、今日も早起き。日傘片手にイソイソと外出し、喫茶店でコーヒーを飲んでふうっと一息いれたあと、中戸川吉二『北村十吉』を読み進める。中戸川吉二ってば三十近くにもなってしみじみ駄々ッ子だなあ、なかよしの三宅周太郎もさすがにあきれ顔のご様子、とタラタラと読み続けて、次第にダレてくるものの、中戸川を取り巻く家族たち、親や十歳年上の兄とか家族のために洋食をこしらえる兄の恋人よりは年上の妹とか、そんな富裕な家庭描写などに妙に和みもして、読み心地は決して悪くなくて、今日もスイスイとページがすすむ。

『北村十吉』をソコソコに切り上げて、大急ぎで郵便局に立ち寄り、実は昨夜に扶桑書房より届いていた古本代の支払いを済ませる。今月上旬に届いて大いに動揺した扶桑書房の目録であったけれども、ほとんど忘れかけていたところで、週末に部屋でふと手にし、風邪でちょっと舞い上がっていたのか、もう売り切れているかもと油断して本を3冊注文してしまい、週明け早々に注文したうち2冊が届いて驚愕、であった。ああ、やってしまった……。届いてしまったものはもうしょうがない。今やるべきことは代金を支払うことのみである、というわけで、早々に支払いを済ませる。今回届いたのは、前回買い逃して京橋図書館で借りて読んであらためて思いがつのった谷崎精二『都市風景』(砂子屋書房、昭和14年)と、野口冨士男『風の系譜』(青木書店、昭和15年)。


扶桑書房に支払いを済ませてとにかくも気分すっきり、とにかく早く忘れるとしよう(何を?)。日中の外出の折に、ひさしぶりに三信ビルの地下の書店に足を踏み入れる。今月いっぱいで営業終了、と貼紙にある。ちくま文庫の今月の新刊、大村彦次郎『文士のいる風景』を買う。お気に入りのストライプのカヴァーをかけてもらってご満悦。この書店で買い物するのは今日で最後になるかもと思う。

ちょいと時間が余ったので、これ幸いと、線路沿いのドトールに立ち寄る。二階の窓から正面に線路が見えて、その景色を無心に眺めて、いつもたのしい。新幹線、山手線、その他いろいろ、次々と電車が通って、線路の向こう側にかすかに高速道路が見える。買ったばかりの、大村彦次郎『文士のいる風景』を卒読して夢中。時間を忘れて、夢中になる。



扶桑書房から届いた、野口冨士男の初の著書、『風の系譜』(青木書店、昭和15年7月20日発行)。左が函で、右が本体。装幀は渡辺勉。帯に岡田三郎が推薦文を書いている。野口冨士男本人作成の年譜を見ると、昭和9年、「行動」の編集部にいた野口が「あらくれ」の編集にも携わり徳田秋声に接近し岡田三郎の知遇を得た頃、すなわち野口冨士男の生涯を決定づけた昭和9年のところで、十返肇らとともに市ヶ谷界隈、新宿界隈を路地裏を徘徊した仲間のうちに、渡辺勉の名前を見ることができる。

ちなみに、大村彦次郎の『文士のいる風景』の野口冨士男の項では、『野口冨士男自選小説全集』(河出書房新社、1991年)の巻頭にある肖像写真と同じ写真が使われていて(武藤康史曰く「水もしたたる美男子」)、その撮影者は渡辺勉。