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中戸川吉二の短篇小説が琴線に触れてしかたがない。

張り切って早々に外出。喫茶店でコーヒーを飲んでひと息ついたあと、おもむろに昨日図書館で借りたばかりの『中戸川吉二選集』(渡辺新生社、大正12年)を取り出し、まずは目次を眺めてにんまり。タイトルの字面(「兄弟とピストル泥棒」「犬に顔なめられる」「イボタの蟲」「法要に行く身」「わかれ」「アップルパイ ワン!!」「馬」「二夫婦半」「寝押」「自嘲」)がなんだかとってもいいわ! 字面を眺めているだけで嬉しいわ! と、さっそくはしゃぐ。タイトルに惹かれて、まずは「アップルパイ ワン!!」を読む。舞台装置は大正のカフェパウリスタ、ほんの短い一篇をかみしめるように読んで、ああ、いいなあと、さっそくいとおしくてたまらなくて、新潮の『名短篇』(ISBN:410790136X)で「寝押」を初めて読んだときとまったくおなんじように、ウルウルになる。なんでもないようでいて、実にいとおしい。ピンとこない人には「だから何?」といったところなのだろうけど、好きな人にとってはたまらない、琴線に触れてしかたがない、そんな気がする。こんな感じにたまにでもクイッと琴線に触れてしまうような小説に出会えるのは幸福なことだなあと思う。と、ぼんやりしたあとで、中戸川による前書きでしみじみ感じ入るものがあり、次はラストに収録の「自嘲」という短篇を読み、やはりしみじみと感じ入る。もったいないので、ゆっくり読み進めるとしようと中戸川は今日はおしまいにする。残り時間、しょうこりもなく、扶桑書房の目録をいつまでも眺める。

昼、こうしてはいられないと、早々にコーヒーショップへゆく。『中戸川吉二選集』を開き、「イボタの蟲」を読み、またもやウルウルになる。もったいないので、ゆっくりと読まねばならぬのだったと、中戸川吉二のあとは、しばし『デイヴィッド・コパフィールド』の第二巻をひもとくも残り時間はわずかであった。

帰り、銀座に立ち寄る。山野楽器に足を踏み入れ、越路吹雪を物色するも、めぼしいものがないので、早々に帰ることにする。イヤホンで「イカルスの星、イカルスの星〜♪」とノリノリになりながら、夕食の支度をする。