ムターのモーツァルトを聴き、『歌舞伎辞典』を買い控える。

もっと寝ていたかったけど無駄に早く目が覚めてしまった。いくつか家事を終わらせてもまだ時間がある。これ幸いと、今日は歩いて出かけることにする。歩きながらイヤホンでムターのモーツァルトを聴く。このところ3番と4番のコンチェルトに夢中なのだった。「ムター、あなたはすばらしい!」と聴き惚れながら、テクテクと歩く。だいぶ日が射しているけどまだまだ奥のほうから寒さがツンと射す。

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全集

まだ時間があったので、喫茶店でコーヒーを飲んで、ひとやすみ。昨日買ったばかりの『廣津和郎 初期文芸評論』を繰って、ホクホク。「広津和郎、あなたはすばらしい!」となんだかとっても嬉しい。


日比谷図書館に出かけてそのあと田村町のキムラヤで閉店まで本を読むといたしましょう! というようなことを1日中思って、それだけをたのしみにしていたのだけど、出るのが遅くなってしまったので断念、無念なり。テクテクと家路を歩く。途中、神保町を通りかかる。気が向いて迂回していつもは通らない道を歩いてゆくと、オヤまだ開いているお店がある。せっかく通りがかったことだしと店頭の均一コーナーだけざっと眺める。日本演劇社発行の『歌舞伎辞典 ア〜オの部』という見るからに粗末な一冊が目にとまった。戸板康二の『あの人この人』の「渥美清太郎の歌舞伎」で言及のある本、いままで特に深く考えたことはなかったけど、実物を見るのは初めてかも。200円なので買おうかと思ったけど、こんなものを買ってどうするという気もするので、今日のところはやめておく。

帰宅後、焙じ茶を飲みながら、『あの人この人』を繰り、うーむ、『歌舞伎辞典 ア〜オの部』は戸板康二資料の珍奇品として手元に置いておくべきかもと後悔至極。

日本演劇社が社業不振を挽回しようと考え、結果は失敗だったが「歌舞伎辞典」を数冊に分けて売ろうと計画した。/その会議で、執筆メンバーの詮衡の議案がまず提出されると、「はじめの一冊から、私がひとりで、一ヵ月で書きます」といったのが渥美さんである。一同呆然とした。/(ア―ケ)の第一冊だけ出来て社が解散したので、これは俗にいう「まぼろし」と称せる稀本となり、古書市では高価だという。/ところで、この「辞典」を、渥美さんは当時住んでいた国立駅から中央線の電車で東京駅に着くまで、毎日座席で書きついだのである。こんな芸当が誰にできるだろう。
【戸板康二『あの人この人 昭和人物誌』「渥美清太郎の歌舞伎」より】

ああ、書き写しているうちに、ますます欲しくなってきた。今度通りかかるとき無事に発見できるといいけど。ただし、べつに「古書市では高価」ではないと思う…。