文化生活一週間 #05

今週のおぼえ帳

本を読んでの映画を3本

数年ぶりの再見。金井美恵子の文章を機にずっと見たいと思っていて、念願かなってスクリーンで見たのは何年前だったかな。このたびのDVD の発売を記念しての上映のチラシを手にしたときは、スクリーンで見られるというだけでとっても嬉しいなア! と、嬉しいあまりにしばらく本棚に立てかけて飾っておいたほど。金井美恵子の本はあらかた売り払ってしまって、最近は新刊を買うということもなくなってしまった。現在わが書棚にある唯一の金井美恵子は『本を書く人読まぬ人とかくこの世はままならぬ』正続。この本はたぶんずっと本棚に収まっていると思う。

  • 山本嘉次郎『花のお江戸の無責任』(昭和39年・東宝)/シネマアートン下北沢《初笑いだよ!お正月映画大集合!》(http://www.cinekita.co.jp/

「原案」に戸板康二の名前がクレジットされているという理由だけで、長年見たいと思っていた映画。宿願かなってやっと見ることができた。わーいと大喜びで下北沢へ突進。……というのはウソで、まあ、あまり面白くなさそうだけど(クレージーキャッツはあまり好きじゃないし)、「戸板康二資料」を見るチャンスを逃してはならぬと、半ば義務感で見に行ったのだった。いざ見てみると、まあ、思っていた通りの映画だった。植木等と谷啓はいかにもだったけど、播随院長兵衛のハナ肇がふつうに播随院長兵衛で、なかなか貫禄ある堂に入った播随院長兵衛。なんだ、かっこいいじゃないかッと笑う。

  • 井上和男『なんじゃもんじゃ 「可否道」より』(昭和38年・松竹)/ラピュタ阿佐ヶ谷《文豪たちの昭和》(http://www.laputa-jp.com/

獅子文六の『コーヒーと恋愛』の映画化。獅子文六は大好きだけど、『コーヒーと恋愛』はもともとそれほど好きな小説ではない(もちろん悪くはないけど)。森光子と加賀まりこと川津祐介、この顔ぶれが日頃の好みとは程遠くて、あのストーリー展開でこの俳優たちと、ちょっと想像しただけで、まあ、少なくとも好みの映画ではないだろうなあというのが自分内予想だった。で、いざ見てみると、この予想は半ば当たり、半ば外れたといったところ。森光子と加賀まりこの予想通りの過剰な演技は見ていて嬉しくなく、川津祐介もただふてぶてしいだけで、彼ら登場人物に1ミリたりとも共感がわかないのはいたしかたない。が、原作にほぼ忠実な映画を全篇見通してみると、「恋愛」部分は好きじゃないけど「コーヒー」の部分はやっぱりいいなあという点で、小説とまったく同じ肌触りだった。そして、さらに面白かったのは、風俗資料としてなかなか秀逸な仕上がりになっているということで、予想外にあちこちでホクホク。それから思いがけない脇役陣にも幾度かホクホク。そんなこんなで、見る価値は大いにあった映画だった。

タイトルバックからしていかにも「獅子文六気分」で洒落ッ気たっぷり。「可否道」の会のメンバーのひとりに噺家がいたというのはすっかり忘れていたけど、クレジットに「小さん」の名前を見た瞬間、ワオ! と大喜び。そのあと、「さん治」の名前を見たときは、若き小三治が出演していたとは! キャー! と心のなかで大絶叫だった(実際の登場シーンでも大興奮。が、小三治にとっては消したい過去だろうなあ)。可否会といえば会長の加東大介という配役にも大喜び。しかし長門裕之はあいからず苦手だ。

映画が始まってすぐに、売れっ子テレビ女優であるところの森光子の描写がしばらく続くところなど、テレビ局をめぐる描写が昭和30年代のテレビの動く風俗資料という感じでとりわけ興味深かかった。その昭和30年代のテレビあれこれ見物、というのが、今回の映画での一番の収穫だった。

なんとしても特筆すべきは、当時のトーク番組『春夏秋冬』のシーンが挿入されるということだろう。その『春夏秋冬』見物が今回の映画の一番の目的だったのだけど、期待を裏切らぬすばらしさ。『春夏秋冬』というのは、徳川夢声、近藤日出造、サトウ・ハチロー、山本嘉次郎、渡辺紳一郎、奥野信太郎ら、戦後の雑本好き古本好きだったら必ず「おっ」と反応してしまうに違いない顔ぶれのトーク番組(日本テレビ)。昭和31年6月に『雨・風・雲』というタイトルでの放映開始以来、夢声は15年間に渡ってレギュラーをつとめ、夢声の生前最後のレギュラー番組でもあったという(以上、参考文献:濱田研吾『職業“雑”の男 徳川夢声百話』)。『春夏秋冬』シーンが今回の映画での一番の興奮で、こうして5人のメンバーを並べてみると、夢声はさすがに「俳優」だなあとほかの4人のダイコンぶりに大爆笑だった。

売れっ子テレビ女優であるところの森光子のアパルトマンは、当時の婦人雑誌のインテリアページを見るようで、その現実感のなさがかえってグラビアのようで目にたのしかった。曲がり角の新劇、隆盛するテレビといった当時の世相を見るたのしさが随一、その世相をいろどるようにして散見される「風俗資料」あれこれ、その見物がとてもたのしかった。テレビ局の喫茶店でホンを書く男が青島幸男だったとあとで知った。チラリと映る電車は101系、というのもあとで知った。最後の空港シーンが無駄に長いよと思ったけど、当時の空港の様子も面白いのだった。

まとめてみると、風俗描写としての映画、という点で大満喫だった。それから、わたしは好みではなかった今回のキャスティング、では『コーヒーと恋愛』の理想的なキャスティングやいかに、と思案するのもたのし、なのだった。

  • 日曜日の午後の幕見席:二月大歌舞伎/歌舞伎座・昼の部一幕見『浮塒鴎』『極付幡随長兵衛』

京橋図書館に行き、本を返して各紙書評欄をチェックして、YOU でオムライスを食べて、さア、かねてからの予定通りに『極付幡随長兵衛』を見るといたしましょう! と幕見席の行列に加わると、ちょうど『浮塒鴎』の入場が始まったところ。吸い込まれるように中に入り、『浮塒鴎』と『極付幡随長兵衛』の見物を満喫。吉右衛門の長兵衛は先代勘三郎追善のとき(2001年4月)に見たときたいへん堪能したので、今回の上演を知ったときは、吉右衛門の長兵衛がまた見られるとは! と嬉しくてたまらなく、さっそく見物に。吉右衛門と段四郎と玉三郎に菊五郎という配役が実際に見てみると、これまた大満喫だわいと、ああ、早くもまた見たい! のだった。