戸板康二の岩波現代文庫再登場を知った日

朝の喫茶店でエスプレッソをすすりながら、昨日届いていた「月曜倶楽部」の目録の注文のハガキを書く。いつもはファックスだけど今回はつつましくハガキにした。いかにも落選しそうだけど、こうして注文するだけでもなんだかとっても嬉しいのだ。と、いかにも落選しそうと今から諦めておくことであとの落胆を少しでも軽減しようという魂胆ではあるけれども、でもでも、当たるといいなア! 


「映画の日」なので映画館へまいりましょうと、日没後、銀座界隈へ。ちょいと時間が空いていたので教文館であれこれ本を見て回って、最後に「銀座百点」と「図書」をちょうだいして退散。その直後、「図書」の新刊案内で、来年1月の岩波現代文庫の新刊として戸板康二の『歌舞伎ちょっといい話』が出ることを知った。ワオ! 当初は『チャーリーとチョコレート工場』を見に行く予定でいたけど、岩波現代文庫のことを知ったとたん、映画館へ行く気が失せてしまって、こうしてはいられないと、急に来年の手帳のリフィルを買いたくなって、伊東屋に突進。2006年後半は内田光子さんの来日公演があることだし、少なくとも来年末までは生きながらえていたいものだと強く願うのだった。


帰宅後、シューベルトのソナタ D.850 と D.784 の2曲が収録されている内田光子さんのディスクを聴いた。このディスクに収録されている2曲のソナタはいずれも1999年9月の来日公演の折に演奏された曲なので、発売になったときはあのときの来日公演の思い出がパッケージされているような気がして、以来とりわけ愛着たっぷりの一枚。と、シューベルトを聴いているうちに、ふと1999年の来日公演の折に聴きに出かけた内田光子さんのトークショウのことを思い出して、あのときのメモがあったはずと棚から当時のノートブックを取り出し、内田光子さんのお話を振り返って、いろいろ「おっ」となった。内田光子さんによると、ゼルキンのアパッショナータ、1930年代の録音が絶品とのこと。このときからずっと聴きたいと思い続けているフィッシャートリオの《大公》ともども、まだ聴けていないのでいつか必ず、と思う。内田光子さんが一番好きなベートーヴェンは1954年のパリのフルトヴェングラーとここにメモしてあって、このディスクは後年ありがたくも入手に成功している。

と、シューベルトを聴きながら、当時(1999年)のノートブックを気まぐれに眺めていたら、内田光子さんの次月の10月に、上村以和於さんの「近代の劇評家たち」という講演を聴きに出かけている様子でびっくり。うーむ、すっかり忘れていたけど、いろいろと「おっ」ということをメモしてあるなあと眺めているうちに、だんだん思い出してきた。この講演、神保町の豊田でチラシをもらって、当時戸板康二に夢中になったまなしでこのあたりの知識を切望していたところでこいつはタイミングがいいわぇと張り切って出かけたのだった。当時この講演を聴いたことが、わたしののちの戸板康二読みの方向(らしきもの)を決定づけたなあと今しみじみ思う。そうそう、この日は日曜日、上村さんの講演のあと、夕方にお友だちと待ち合わせてイソイソとスガシカオのコンサートに行ったのだった。なつかしすぎる…。


ところで、このノートブックの欄外に唐突に、「三島霜川の『役者芸風記』」の書名がメモしてあって、「すばらしき名著!!」と付記されている。いつメモしたのかは不明。自分の書いたメモながらいったいなんなのだろう、わけがわからない。と、いまだに手に取ったことのない本だったけど急に気になって、戸板康二の『演芸画報・人物誌』を取り出した。そして、三島霜川の『役者芸風記』を読まねばならぬと急に燃えた。


そんなこんなの内田光子さんのシューベルトが静かに響いている師走朔日の夜、年内の一番の懸案は「戸板康二ダイジェスト」の再開、と思った。