奥村書店とフィルムセンター

日没後、イソイソと外に出てマロニエ通りを歩く。奥村書店1軒目にひさびさに足を踏み入れる。俳句コーナーに戸板康二の『句会で会った人』と『季題体験』が2冊並んで売っているのを見て(各1000円)、じわっと涙ぐむ(心のなかで)。『季題体験』はネットで検索すると佃煮にするくらい売っているけど店頭で見たことはとんとなかった。もう何年も前から『季題体験』は松屋裏の奥村で買うのがもっともふさわしいと思い、ここの奥村で『季題体験』を見つけるのをずっと待っていた。が、今年9月、ぽろっとネット経由で買ってしまったのだった。ああ、もう少しがまんしていれば、11月朔日という日に、ここ奥村で『季題体験』を買うという至福の瞬間を味わうことができたというのに。とかなんとか思いつつ、マロニエ通りを直進、昭和通りを渡って、新生堂奥村に足を踏み入れる。

食味コーナーで神吉拓郎著『洋食セーヌ軒』というタイトルを見て、「あっ」と手にとる。昨日眺めていたばかりの、雑誌「ノーサイド」1996年5月号の《美食家列伝》特集に神吉拓郎の項があった。そこに食べ物を主題にした小説を季刊誌「四季の味」に連載していたことがチラリと紹介されていて、「おっ」とちょっと読んでみたいなと思った。(ちなみに現在の「四季の味」では常盤新平による食べ物を主題にした小説を読むことができる。)と、そんなわけで『洋食セーヌ軒』の初出を確認すると、思ったとおりに初出は「四季の味」だった。こいつぁタイミングがいいわえと値札をチェックすると500円、ホクホクと購入。ついでに、読みたいなと思いつつも買い損ねていた、みすずの《理想の教室》シリーズの小倉孝誠著『「感情教育」歴史・パリ・恋愛』を一緒に購入。こちらも500円。

京橋図書館で予約していた本を引き取って、フィルムセンターに向かってズンズンと歩く。待ち時間に借りたばかりの黒川創『明るい夜』を読む。《生誕百年特集 映画監督 斎藤寅二郎と野村浩将》開催中のフィルムセンターは前回の成瀬特集と比べるとグンと人が少なかった。でも上映間際になると館内の椅子は結構埋まっている。昭和10年の松竹蒲田映画『爆彈花嫁』と昭和16年の徳川夢声主演の『子寶夫婦』の2本立てを見る。あまりにゆるいつくりの『子宝夫婦』にヒクヒク、ここまでゆるいとは! 終わったあとは脱力感を通り越して笑うしかないという感じで、外に出て回るアサヒペンを見上げつつ、つい何度も笑ってしまうのだった。