鍛冶橋通りをゆく

もっと寝ていたいのに目が覚めてしまったので外はまだ暗いけど起きることにする。特にやりたいことも思いつかないのでひとまず部屋の掃除をしたあとで、そうそう、国立劇場の予習をしようと思いついて、図書館でコピー済みの『貞操花鳥羽恋塚』の上演資料集に目を通す。まずは脚本読みに備えてレジュメ(というほどのものではない)を作成。南北そのものというよりも、歌舞伎史における「文覚物」と「崇徳院物」の系譜というのを眺めているうちに面白いなアととたんにウキウキ。伊原青々園の『桟敷から書斎へ』という書物からの抜粋が素敵。前から思っていたけど『桟敷から書斎へ』というタイトルもしみじみいいなあと急に欲しくなる(ト検索すると、またもや「あきつ」で売っている…)。おっと、本を欲しがってばかりはいけない、手持ちの本を繰るとしようと筑摩書房の明治文学全集、戸板康二編『明治史劇集』を取り出す。この1冊に依田学海と川尻宝岑による『文覚上人勧進帳』と松居松葉の『袈裟と盛遠』が入っているのでひとまず気分が盛り上がるのだったが、これよりも芥川龍之介の『袈裟と盛遠』を読みたくなり、文庫本棚を探索するが、新潮文庫が絶対にあるはずなのに見つからない。……というようなことをしているうちに、すっかり出るのが遅くなってしまった。雨の中をイソイソと外出。

昼休みはお弁当もそこそこに本屋さんへ、「ちくま」を入手したあと、コーヒーショップへ。「地下室の古書展」の目録をじっくりと眺める。そして、西秋書店さんのツボをついた並びにうーむと唸るのだった。今日のところは、とりあえず岩本和三郎関係の雑誌、文体社の「文体」と双雅房の「読書感興」を図書館でチェックせねばと思い始めて幾年月だったのを思い出したので、近日中にチェックしよう、とメモ。佐藤春夫の『陣中の竪琴』が欲しいと思い始めて幾年月だった、ということを思い出したりも。「ちくま」をざっとめくって、石田千さんの文章を読んで、真夏の夜の星空の下の九段会館の屋上のビール(とバニーガール)のことを思い出してなつかしい。とかなんとか、思い出してばかりいるうちに昼休みが終わる。

帰りは鍛冶橋通りをズンズンと早歩き、成瀬巳喜男レトロスペクティヴ開催中のフィルムセンターへ。ついつい行き損ねていたフィルムセンターの成瀬巳喜男特集に来たのは今日が初めて、『勝利の日まで』と『三十三間堂通し矢物語』の2本立てを見た。お目当ての徳川夢声、古川緑波、高峰秀子の豪華共演の海軍慰問映画の『勝利の日まで』はタイトルバックのイラストが素敵でさっそく心ときめき、映画が始まると予想通りの脱力感にヒクヒクだった。誰ひとり笑わない場内で笑いをこらえるのに一苦労の15分間だった。ついでに見ることになった田中絹代と長谷川一夫共演の『三十三間堂通し矢物語』は案外な佳品で、中盤あたり、長谷川一夫と市川扇升が歩いていると後ろから河野秋武が来るあたりの画面がとてもよくて、急にスーッとした感激、時折あらわれる自然光を捉えたゆるやかなショットのいくつかに惚れ惚れ。敗戦直前の戦時下の成瀬映画、『勝利の日まで』と『三十三間堂通し矢物語』、両極的になかなかの見ものだった。映画のあとは気の向くままに八丁堀界隈を散歩、永代橋を渡って、門前仲町から地下鉄に乗って帰宅。