教文館と歌舞伎座

教文館の「暮しの手帖」フェア


母と待ちあわせて、昼下がりの銀座へ。芝居見物の時間までお茶を飲んでのんびりいたしましょうと、お目当ての店へ出かけてみたらあえなく満席、土曜日の昼下がりはどこのお店も満席だわい、と、こんなときは、こんなときは、と急に思い出して、教文館のカフェ(http://www.kyobunkwan.co.jp/Cafe/cafe.htm)へ出かけることにした。ひさしぶりに来てみると、満席にならない程度にほどよくお客さんは入っているし(全員ご婦人)、皆思い思いにくつろいでいるし、メニュウは増えているし、数ヵ月前の開店まなしのときを思うといい具合に定着しているという印象、店員さんはとても感じがよく、コーヒーも紅茶も丁寧にサーヴされ、以前と同じく空間全体がたいへん好ましかった。このまま静かに存続することを心から願う。

と、教文館のカフェがいい具合に定着していたのが嬉しかった。が、嬉しかったのはそれだけではない。当初のお目当てが満席だったおかげで来ることになった教文館ビル、その4階(だったかな)にて開催中の、「暮しの手帖」フェアに思いかげなく遭遇、という偶然があった。フェアの開催を告げるエレベーターホールのウィンドウの真ん中に、戸板康二著『歌舞伎への招待』の初版本(http://www.ne.jp/asahi/toita/yasuji/a/006.html)が展示してあって、ワオ! とつい興奮。気分は一気に、いつかの ggg における花森安治展だった。『歌舞伎への招待』を見てしまったとなると、一応は足を踏み入れておかねばと、ただそれだけの理由で深い考えもなく、「暮しの手帖」フェアをのぞくこととなった。

芝居見物の時間が迫っていたので、あまりゆっくりできなかったのが残念だったのだけれども、なんの前触れもなく遭遇した「暮しの手帖」フェアは、大橋さん(だと思う)から直接お話を伺えたのが、なんとも格別でなんとも感激で、思えば「暮しの手帖」が子供時分からおなじみだったのは母が購読していたおかげだったので、母と来ることになった教文館でこんな偶然に遭遇したことがなににも増して嬉しかった。

暮しの手帖社の今はなき別館の2階で昭和20年代の「暮しの手帖」を繰った日のことを思い出した。初めて戸板康二の名前を知ったその日はちょうど今時分の季節、1998年6月の出来事なので、もう7年も前だ。別館の帰りに、六本木のクローバーの2階の窓辺の席でのんびりしたのをよく覚えている。六本木のクローバー、地下鉄が開通する前の古きよき時代の六本木を彷彿とさせる数少ない場所、そのクローバーの建物にももう何年も行っていない。まだあるのだろうか…、まだあるらしい(→ http://www.clover-inc.com/)。

上の画像は、三岸節子の静物画。大橋さん(に違いない)からうかがったこの絵にまつわるお話がとてもよかったので、記念に貼りつけて、うっとり。

麻布の社屋を引き払ったときに倉庫から出てきた本、とのことで、古本が何冊か売っているのも嬉しかった。キャー、戸板康二の『歌舞伎ダイジェスト』(なんと3000円)が積んであるー。福原麟太郎の『人間世間』といった、もともと持っている本とともに、前々から欲しかった清水一の句集(1000円)が積んであって大喜び。これはあまり見ない本なので喜びもひとしお、意気揚揚と購入。勢いに乗って、滝沢修のお兄さん、滝澤敬一の本(2000円)も一緒に買った。

  • 清水はじめ『句集 匙』(暮しの手帖社、昭和41年)
  • 滝澤敬一『わが家のメニュウ』(暮しの手帖社、昭和30年)

 

古本で「暮しの手帖」を何冊か嬉々と手にしていたとき(今はもう買わなくなったけど)、大好きだったのは、清水一(しみず・はじめ)の建築エッセイだった。暮しの手帖社刊の2冊の単行本(『すまいの四季』『家のある風景』)を嬉々と購っていたのも懐かしい。このときが、花森安治の装幀に心ときめかした最高潮だった。佐野繁次郎装幀の『すまい読本 人の子にねぐらあり』のことを知ったのは、それよりずっとあと、ユトレヒトでの展覧会(の冊子)にて。「暮しの手帖」で知ってだいぶあとで、戸板康二の『句会で会った人』で清水一に再会したときの嬉しかったことといったらなかった。そして、『句会で会った人』で知って読んだ、車谷弘の『わが俳句交遊記』での清水一がまた素敵だった、と、追憶はいつまでも続く。清水一が設計したという、暮しの手帖社の旧社屋ももうないのであった。『句集 匙』は、まずタイトルが好きだ。富安風生が序文を寄せ、加倉井秋をが跋を書く。加倉井秋をが言う、「清水さんの俳句に触れるたびに、何とはなくニヤニヤと微笑を禁じ得ない。妙なおかしさがこみあげてくるのである」という一節にうなずくことしきり、建築家ならではの視点の俳句ということに関して論じる富安風生も実にいい。『句集 匙』を手にして、いつまでも心に残るのは車谷弘のこと、そして、戸板康二の『句会で会った人』にまつわる一連の本読みのことなのだった。


芝居見物:六月の歌舞伎つれづれ


(以下、あとで書き足し予定。今月は坪内逍遥月間であった。坪内逍遥の『柿の蔕』が今とても読みたい)

  • 歌舞伎学会シンポジウムのこと
  • 六月大歌舞伎『盟三五大切』『良寛と子守』『吉原雀』/ 歌舞伎座・夜の部