鍋井克之、獅子文六、窪田般弥

夜ふけ、鍋井克之の『閑中忙人』を繰っている。昭和20年代の随筆を収めたこの本、延若の五右衛門とか梅玉とか歌舞伎の話題もたくさんで、おのずと鍋井克之装の戸板康二『今日の歌舞伎』のことを思い出さずにはいられない。いろいろな「昭和20年代」を時折鍋井克之の素敵な挿絵とともに読むことができる。それにしても、いい本を買ったなあと嬉しい。学生時代に同級生とともに谷中の熊谷守一を訪ねたというくだりがあったりと熊谷守一が登場しているのも嬉しい。小出楢重が熊谷守一の油彩小品を「天狗の落し書」と評していたとのこと。この並びがただ、いいなあと思う。鍋井克之が主宰していた大阪の文学者と画家による素人歌舞伎「風流座」のくだりでは竹中郁が登場、といったふうに、文学者とのつながりの面白さの鍋井克之ならではのもの。「大阪特異型の芸術家」と題する織田作之助の追悼の文がある。初めて織田作之助に会ったときの第一印象を描写する文章が目に見えるように鮮やかで胸がいっぱい、《すぐにこの人は高岡徳太郎に似ていると思った。》という。…とこのくだりを見て、急に獅子文六の『達磨町七番地』(白水社、昭和12年)のことを思い出して、本棚から取り出して眺めた。昔、早稲田の平野書店で買った古ぼけた1冊。高岡徳太郎の装幀と挿絵がとても素敵で大のお気に入りなのだった。高岡徳太郎というと『達磨町七番地』の装幀者、というくらいの知識しかなかったのだけれども、思わぬところで高岡徳太郎に再会。それにしても、織田作之助の新全集が出たらどんなにいいだろうと思う。とすると装幀は誰がいいだろう。

購入本

  • 窪田般弥『夜の牡蠣』(小沢書店、昭和58年)

木曜日、京橋図書館へ行く途上のマロニエ通りに奥村書店にて。いつもながらにいかにも小沢書店という造本がささやかに素敵の小ぶりの随想集。いつも大好きな、いろいろな媒体に発表した文学、音楽、美術、ポルトレといった小文を集めている。とりわけ小沢書店のこういう形態の本が大好きで、わが書棚の「小沢書店コレクション」(といってもほんの数冊)に新たな1冊が加わった。函のタイトルのところと扉にあしらってある挿画は何だろうと思ったら、レニエの『ヴェネツィア風物誌』のマクシム・ドトマの挿画なのだった。どこまでも素敵。暁星出身の「山の手の子」の窪田般弥、「渋谷界隈」という冒頭の文章で大岡昇平のことを思い出してさっそく嬉しかった。堀口大学や山内義雄など、高雅でありつつも軽やかな「翻訳者」の系譜にますます興味津々。

  • ローデンバック/窪田般弥訳『死都ブリュージュ』岩波文庫(ISBN:4003257812

窪田般弥訳のレニエの『ヴェネツィア風物誌』が欲しいなあと思ったところで、買い損ねていた岩波文庫のことを思い出し、昼休みの本屋さんで購入。