マロニエ通り日記

マロニエ通りをテクテク歩いてゆく途上、まずは紙百科ギャラリーで《臼田捷治の魅せられたブックデザイン》展をふらっと見物。思っていた以上にたいへん満喫だった。いい気分で外に出て、山野楽器で「東京かわら版」を買って、「銀座百点」の新しい号をもらったあと、奥村書店をのぞきがてら目当ての京橋図書館へ。展覧会の余韻で、藤田三男著『榛地和装本』を予約。今すぐ見たかったのだけど、後日のたのしみとしよう。急に思い出した、保昌正夫・栗坪良樹編『早稲田文学人物誌』(青英舎、昭和56年)の方は在庫があって、無事に借りることができた。なにかとすぐに読みたい感じだったので、図書館のあとはタリーズでのんびり。

保昌正夫・栗坪良樹編『早稲田文学人物誌』は手にしただけで、往年の小沢書店本を彷彿とさせるようなささやかでありつつも高雅な品のよいたたずまいにさっそくうっとりだったけれども、中身もとても素敵だった。「早稲田文学」昭和51年8月号から昭和55年12月まで続いた連載をまとめたもので、見開きに一人ずつ、小沼丹にはじまって平岡篤頼にいたる計102名の「早稲田文学人物誌」。いろいろと「おっ」の連続で、抜き書きしたい箇所がたくさん。保昌正夫さんによる網野菊さんのページが嬉しくて、尾崎一雄、瀧井孝作といった、志賀直哉をとりまく人物誌があらためていいなあと思う。大の網野菊贔屓だったともいう浅見淵が気になってきた。それから、福原麟太郎も評価しているという網野菊訳の『シャーロット・ブロンテ伝』を読んでみたい。

帰宅後は「榛地和装本」の『保昌正夫一巻本選集』(ISBN:4309906206)を読み返した。それにしても、いつ手にしてもなんて美しい本なのだろうと思う。今日の展覧会で一番好きな本だった、伊藤整『鳴海仙吉』(細川書店、1950年)に言及した小文を目にして「おっ」だった。ミルクティを飲みながら保昌正夫さんの本を繰っているうちに、『早稲田文学人物誌』を一刻も早く注文せねばッ、などと思っていたのが、時節を待つことにしようというような静かな気持ちになったのが嬉しかった。


展覧会メモ

  • 装幀研究者の個展 臼田捷治の魅せられたブックデザイン / 紙百科ギャラリー *1

開催を知って今すぐに行きたいと思い、また、いつもよく前を通りかかる場所であるのに、ちょっと来るのが遅くなってしまったのは、臼田捷治著『装幀列伝』(ISBN:4582852416)をじっくりと読み返した直後に見物したいなと思っていたから。と、まさしく『装幀列伝』をたいへん面白く読んだ身としては、このような展覧会が企画されているのはなんと幸福なことだろうとしみじみ思ってしまうような嬉しい展覧会だった。図版ではなく実際に本を目の当たりのする興奮は、いざ目の当たりにしてみると、当然ではあるけれども思っていた以上のもの。『装幀列伝』で好きだった装幀家の代表格、村上善男の本を凝視したり、「純粋造本」の細川書店による装幀にうっとりしたり、などなど眼福の数々だった。『装幀列伝』を読んで目から鱗だったことのひとつが第一章の「編集者の仕事」に書いている諸々のことだった。思えば、装幀もろもろにますます心惹かれたきっかけは、わたしの場合は文藝春秋の車谷弘だった。展示は『装幀列伝』で紹介のある本だけではなくて、初めて見た本もあった。斎藤昌三自装の『書癡の散歩』(書物展望社、1932年)の本体にはなんと使い古しの番傘が使われている! 「下手(げて)趣味」という言葉がいいなあ。雑誌「pen」の《美しいブックデザイン》特集(2004年12月1日号)であらためて目を開かされたのが原弘のタイポグラフィだった。その原弘にささげた、田中一光装幀の『原弘―グラフィック・デザインの源流』(平凡社、1985年)にうっとり。こういう書物の展示はうっとりと同時に物欲が刺激されるのもたのしく、二十代の真鍋博装の山川方夫『日々の死』、見るたびにいつも高い粟津潔装の小野忠重『本の美術史』(河出書房新社、1978年)などなど、明日の夢が広がるのだった。