教文館にて、今週のいろいろ


歌舞伎座の千秋楽、幕見席で『実盛物語』を見に行けたら行きたいなと思っていたけれども、結局出るのが遅くなってしまって無念。せめて教文館へ出でてみんと雨降りしきるなか、トボトボと銀座方面へ。と、力なくここまでやってきたのだったが、山野楽器で「東京かわら版」を買い、同時に「銀座百点」の新しい号を入手したとたん、急に上機嫌。心持ちよく教文館へ足を踏み入れてみると新刊台でさっそく、バルテュス夫人の節子さんの著書(タイトル失念)の隣りに、たのしみにしていた野中モモさん(id:Tigerlily)訳の『ベン・ショットの英国博覧記』(→ http://www.tigerlilyland.com/misc/)がデーン! と積んであるのを発見。わーいとガバッと手にとってさらに機嫌がよくなり、買いそびれていた文庫本を一緒に買った。ちょうど火曜日の朝の喫茶店では、図書館で借りたばかりの坪内祐三著『まぼろしの大阪』を読んでいたところ。『まぼろしの大阪』で知って今まで見逃していたのはとんだドジだった! と思った『大阪学 文学編』もさっそく買えて嬉しかった。そんなこんなで、シトシトといつまでも雨が降りしきるなか上機嫌に帰宅すると、石神井書林の目録が届いているし、「銀座百点」にはチラリと戸板康二のことが書いてあるしで、いいことづくめだった。いろいろめくって、すっかり宵っ張りの火曜日の夜だった。

  • ベン・ショット/野中モモ訳『ベン・ショットの英国博覧記』日経BP社(ISBN:4822244113
  • 正岡容『東京恋慕帖』ちくま学芸文庫(ISBN:4480088806
  • 滝沢荘一『名優・滝沢修と激動昭和』新風舎文庫(ISBN:4797494719
  • 大谷晃一『大阪学 文学編』新潮文庫(ISBN:4101382247

今週の古本

  • 武智鉄二『蜀犬抄』(和敬書店、昭和25年)

先月に初めて買い物をした「みはる書房」の目録が今月も届いた。さっそく眺めてみると、武智鉄二の『蜀犬抄』が載っていて、値段もまあ順当なところ。こうしてはいられないとさっそくファックス送信、先週の土曜日、三越歌舞伎から帰宅したら無事届いていて、やれ嬉しや、だった。自分で買ったというのに、贈り物が届いたという感覚。みはる書房でまた演劇書を買いたいものだと思う。4月に『かりの翅』を買い、7月は『歌舞伎の黎明』、そして10月は『蜀犬抄』、と三カ月ごとに手に入れている武智鉄二の著書、これから末永く、この3冊を読み続けようと思う。と、すっかり、武智鉄二の毒気にあおられているのだった。

『蜀犬抄』はいかにも昭和20年代の古本という感じでなかなか愛らしい青と黄色の函入りの本。装幀は高橋周桑で、ちょいと調べてみたら(単なる Google 検索)、高橋周桑は速水御舟門下の画家で武智鉄二の舞台の装置を担当していたりもしたとのこと。武智鉄二は速水御舟に傾倒して作品を蒐集していた。戸板さんが武智鉄二の筆跡が御舟によく似ていると書いているのを、4月に届いた『かりの翅』にあった署名を見たとき思い出して、その後、美術館で御舟を見て、似ているといえば似ているなあと思ったものだった。この高橋周桑による装幀の『蜀犬抄』も背表紙の筆跡がなんとなく御舟に似ている気がする。『蜀犬抄』を開いたのは今回が初めてで、繰るとさっそく先日見たばかりの「饅頭娘」のことが書いてあって、嬉しかった。さっそくランランと読んだ。と、三冊の劇評集を手にしたわけだけど、武智鉄二の劇評はひとことで言うと、とても美しい。とにかく美しい。歌舞伎や文楽といった対象の奥へ少しでも深く入り込みたいものだ、いや、その意志だけは持ち続けたいという気持ちが確実に湧いてくる。この感覚はとても得難いものだった。

  • 坂東三津五郎・武智鉄二『芸十夜』(駸々堂、昭和47年)

八代目三津五郎と武智鉄二の対談集。軽い気持ちで図書館で借りてめくってみたら、あまりに面白いのでびっくりだった『芸十夜』であった。こうしてはいられない、ぜひとも入手せねばと思ったところで、さっそく八重洲古書館で売っているのを見つけた。値段は高くも安くもなかったけれどあと500円安くどこかで見つかるかもとセコいことを思って、当時、購入を見送っていたのだったが、『蜀犬抄』を手にして、急に気持ちが盛り上がって、今すぐに『芸十夜』が欲しいッと、月曜日の夜に八重洲古書館に突進。まだ売っていて、よかったよかった、ガバッと買って、地下街のコーヒーショップでさっそくランランと読み返した。それにしても、すっかり毒気にあおられている…。

とにかくも、たいへんな名著の『芸十夜』。武智鉄二筆のあとがきによると、この本がつくられたのは、同じ駸々堂から刊行された土門拳の写真集『文楽』に載せる文章を依頼されたことに端を発するとのこと。このくだりを読んで思い出したのが、駸々堂がこの写真集を出すにあたって、まず戸板康二に依頼したがその場で「適任ではない」と断られたというエピソード。と、断られたものの、このときが戸板さんと駸々堂との初対面で、意気投合したのか、その後、駸々堂から何冊も戸板さんの著書が出ることになり、さらに、渡辺保さんの『歌舞伎手帖』も戸板康二が紹介したわけで、『芸十夜』を含めて、数々の名著が駸々堂から刊行されたのだなあと、『芸十夜』のあとがきを読んだとき、しみじみとなった。土門拳の『文楽』に寄せた武智鉄二の文章は気になりつつも未読なので、今度、図書館で見てみよう。たのしみ。

映画メモ

  • ジュリアン・デュヴィヴィエ『奥様ご用心』Pot-Bouille(1957年)/ 有楽町スバル座《フランスがいっぱい》

ゾラの原作だとどんな感じなのだろう。水曜日、映画のあと、帰り道の通りがかりの本屋さんでとある女性誌を立ち読みしていたら、映画と原作本、というような特集があった。ルノワールの『ピクニック』とモーパッサンの短編、というような紹介もあって、急に気持ちが盛り上がり、帰宅後の夜ふけ、文庫本棚を探索して、新潮文庫の青柳瑞穂訳のモーパッサン短編集3冊を取り出したり、なんてことをした。木曜日からはひさびさにモーパッサン。