一期一会

日没後、雨が降りしきるなか神保町へ。今日は時間全然なく本屋さんはなしでさる会合に直進、のはすが、前を通りかかったらまだ開いていたので巖松堂にちょろっと足を踏み入れた。ここのお店のそんなに多くはない文庫・新書スペースでこのところ必ず欲しい本が見つかるので、さて今日はどうだろうと実験気分で棚を眺めて見ると、うーむおそるべし、今日も見事に欲しい文庫本があるではないか。前から探していた、網野菊さんの『ゆれる葦』(講談社文芸文庫)を発見。ほかにはないかしらとしばし眺めると、ふと、岩波文庫の『小熊秀雄詩集』が目に止まった。値段をチェックすると150円なのでついでに買うことに。実は、id:kanetaku さんに先月、ここ2年ほどの念願だった宇佐美承著『池袋モンパルナス』(集英社文庫)をちょうだいしたばかりで、ありがたいことだありがたいことだと目下大事に大事に読んでいる最中なのだった。ますます「池袋モンパルナス」気分が盛り上がってきて嬉しい。

三連休のことを考えながら帰宅。予定が詰まっているので、今度の歌舞伎座の夜の部は『井伊大老』はさぼって『実盛物語』からにしようかなという邪念が頭をよぎり、うーむどうしたものかとしばし悩む。ちょっと気が向いて、渡辺保著『歌舞伎手帖』(←いまだに旧版の駸々堂版を使用)の『井伊大老』のページを開いてみたら、「蛇足」のところに、

《この作品の初演に仙英禅師を演じたのは、八代目市川團蔵であった。仙英禅師は、直弼とお静に「一期一会」と書いて行方知れずになるが、団蔵の仙英禅師は不思議な持ち味で忘れがたい。十年後、舞台を引退した団蔵は一人巡礼の旅に出て、瀬戸内海で行方不明になった。網野菊の追悼文の題は「一期一会」であった。》

というふうに書いてあるのを見て、ジーンと感激。すっかり忘れていたが、網野菊さんの『一期一会』のタイトルは仙英禅師からきていたのだった。網野菊さんの文庫本を買ったばかりというタイミングだったのでなおのこと嬉しい。夜ふけ、『一期一会』を読み返して、ポロポロと涙。

新作、北条秀司氏の『井伊大老』の仙英禅師は、歌舞伎での初演以来、団蔵の持ち役と云ってよく、その人ピタリという感じであった。約十年前からこの方、この仙英禅師を三度見たが、最後に見たのは、昨年だったか、とも角、それ程前でなかったように私の頭に残って居るのだが、この時は、大変強い感動をうけた。井伊下屋敷の奥座敷、みんな、大老を出迎えに立って、人気のなくなった部屋に「一期一会」と書いた古笠を置いて一人ひっそり立去って庭に姿を消した禅師の姿は団蔵即禅師という感じで、私は深い感銘をうけたのである。(網野菊『一期一会』より)

購入本

  • 網野菊『ゆれる葦』(講談社文芸文庫、1994年)
  • 岩田宏編『小熊秀雄詩集』(岩波文庫、1982年)