週末日記:能楽堂と古本屋

土曜日、国立能楽堂の普及公演に出かけた。狂言『鏡男』と能『野宮』。普及公演はたぶん初めて、公演の前に「能楽あんない」と称するお話を30分ほど伺うという段取りになっていて、ひさしぶりのお能なのでちょっとしたお勉強気分が嬉しかった。「榊の枝と水仙花」と題して源氏物語の六条御息所のくだりと樋口一葉の『たけくらべ』の類似についてが中心で、日頃からお能にあこがれているのは文学者の古典への素養を経由してという面が多々あるので、そんな歓びの原点に立ち返った感覚。古典への憧れがますますつのった。『野宮』は1度見たことがある。お能見物のたびに図書館で戦前発行の野上豊一郎編『能楽全書』から曲を探してコピーして熟読するのが毎回たのしくて、以前見たときのメモ書きと一緒に『野宮』のコピーもすぐに見つかった。ちょいと早めの晩秋気分がまた嬉しい。で、ひさびさに能楽堂へ行くとそれだけで浄められた思いで、雰囲気にじんわりとひたっいるうちにだんだん焦点がぼんやりしてきて異次元に浮遊しているような感覚をたのしむという感じ。「お能は三日たつとまた見たくなる」というのは福原麟太郎の名言、また思い出したように能楽堂に出かけるのだと思う。それまでにいろいろ本を読んだりとか、もうちょっとお能を強化しておきたいところ。

日曜日はとてもよいお天気で、これまたひさしぶりの、吉祥寺の休日。お祭りの真っ最中だった。先週は自由が丘でお祭りに遭遇していて、このところよくお祭りに遭遇する。いつものように、東急裏のあたりでお昼ごはん、買い物、散歩、コーヒーという感じであっという間に時間が過ぎて、日が暮れた。もうちょっと涼しくなったら井の頭公園に行くのがたのしみ。

購入本

吉祥寺で解散後、ふらっと西荻に寄り道した。先月、数百円で売っていた武智鉄二著『伝統演劇の発想』のことを思い出して、まずは盛林堂へ。すると、どうだろう。どこを見ても武智鉄二の本が見当たらない。なんということだ。まさか売れているとは思わなかった。一通り盛林堂を見たあと、心の隙き間を埋めるべく音羽館へ向かった。店先の100円コーナーに芥川比呂志の『決められた以外のせりふ』があった。100円なら! と迷わず手に取った。芥川比呂志のエッセイは前々から読んでみたいと思っていたのでよい機会。意気揚々と店内に足を踏み入れると、いくらでも欲しい本があるのだったが、ここではちょいと理性を動員、今日の買い物は1000円以内にしようと決めた。

  • 芥川比呂志『決められた以外のせりふ』(新潮社、昭和45年)
  • 網野菊『遠山の雪』(皆美社、昭和46年)
  • 高橋英夫『友情の文学誌』(岩波新書、2001年)
  • 向井敏『本のなかの本』(中公文庫、1990年)

と、散々見てまわったあげく、結果、計1050円となった。網野菊さんの未読本はほかにもあったけれども今日は小倉遊亀装幀の『遠山の雪』に決めた。高橋英夫さんの新書は前々から読もうと思っていたもの。向井敏の書評集『本のなかの本』は一度元版を図書館で借りて読んだことがあった。戸板康二の『ちょっといい話』の書評もある。


節度のある買い物ができて満足満足とそのまま総武線に乗り込んだ。ふと魔がさして、ささま書店をちょっとだけのぞこうと荻窪で下車。そして、ひさびさに来てみると、いつもの通りに欲しい本がありすぎるささま書店。さきほどの理性が吹っ飛んでしまい、あとでひとりで反省会を開いた。今度からは西荻か荻窪のどちらかにして1度に両方行くのは禁止ということにしよう、今度からは……。

  • 曽宮一念『榛の畦みち 海辺の熔岩』(講談社文芸文庫、1995年)

先週の日曜日の昼下がり、歌舞伎座までの空き時間に京橋図書館へ出かけた。地域資料室で曽宮一念の『東京懐古』という本を借りて、タリーズでさっそくホクホクとめくった。曽宮一念のエッセイを読んだのは初めて、別のところで中村彝関連の人物誌を追っていて、曽宮一念の名前がちょろっと登場していて、著書があるならとふと興味を持ったのだった。……というような経緯で初めて繰ることになった曽宮一念のエッセイ集だったのだが、新・読前読後(id:kanetaku:20040905#p3)を拝見してびっくり。わたしが曽宮一念のエッセイ集を繰ったのと同日、金子さんがささま書店で講談社文芸文庫の曽宮一念を購入なさっているではないか。このシンクロニシティはいったい! 講談社文芸文庫で出ていたとはわたしも知らなんだ。いつの日か見つけたいものだなあとフツフツと思った次第。ということがあった一週間後に早くも同じささま書店で、曽宮一念の講談社文芸文庫に遭遇することとなった。さっそく手に入って嬉しい。

  • 正宗白鳥『内村鑑三 我が生涯と文学』(講談社文芸文庫、1994年)
  • 高橋英夫『偉大なる暗闇』(講談社文芸文庫、1993年)

と、意気揚々と講談社文芸文庫コーナーを眺めていると、欲しい本がたくさんあって選択に難儀。前々から読みたいと思っていた正宗白鳥の『我が生涯と文学』は迷わず手に取って、解説を見ると高橋英夫さん。今月の講談社文芸文庫の新刊が出ることを思い出して、旧著も押さえておこうと高橋英夫さんも一緒に手に取った。

  • 牧野武夫『雲か山か 出版うらばなし』(中公文庫、昭和51年)

「sumus」の《小出版社の冒険》特集を読んで以来、発見を心待ちにしていた中公文庫。

  • 石田千『月と菓子パン』(晶文社、2004年)

石田千さんの本は新刊で買うタイミングを逸してしまって図書館で借りてすでに読了済み。たいへん堪能だった。書肆アクセスでサイン本が売っているのを見て買おうとずっと思っていたところだったので、ささま書店で買うことになったのは嬉しいようながっかりのような。でも、とりあえず手に入って嬉しい。少しずつ大事に読み返すとしよう。

  • 鍋井克之『大阪繁盛記』(東京布井出版、1994年)foujita2004-09-12

木村荘八の『東京繁昌記』の西として編まれ1960年に出版された同名の豪華版の本がもとになっている。この本は先週神保町で見つけた。すでに十分安かったのだけれども、ささま書店ではさらにその半額だったので、迷わず手に取った。鍋井克之の随筆に関しては「新風土記叢書」の『大阪』で宇野浩二が言及しているのを見て以来、読んでみたいなと思っていたので、まずはその手始めとして。