葉山日記

金曜日が夏休み第2弾だったので8月最後の週末は三連休となって、いよいよ残り少ない8月、最後の夏休み気分を味わうべく、連休2日目はちょいと遠出。横須賀線に揺られて逗子へ行って、駅から美術館に向かうべく、バスに乗った。あいにくの曇天で小雨がパラついていたけれども、初めて来た葉山の町並みにワクワク、やや道幅の狭い海沿いの道路をバスがスイスイとすり抜けて行って、車窓から海岸を眺めて、道路沿いのなんでもないような町並みも実にいい感じだった。前々からの懸案、神奈川県立近代美術館の葉山館もとても素敵な美術館で、鎌倉の美術館を彷佛させるような中庭を有した設計がよかった。広々とした展示室でのんびりと、柳宗悦の「民芸」あれこれのお勉強。小企画の斎藤義重文庫展では思っていた以上にたのしんで、この小部屋だけでも葉山に来た甲斐があり過ぎるくらいだった。

葉山から逗子駅近くに戻り、近辺を歩いていると、珠屋洋菓子店というお店がとても素敵なレトロな店がまえで、前を通りがかっただけで胸が躍った。あいにく喫茶を他のお店で済ませてしまっていた直後だったので今回は断念、次回の葉山館来訪のときにはぜひとここで休息をと思う。バスの車窓の町並みもそこはかとなくいい感じで、あちこちで散見されるお店のたたずまいにも胸が躍ったのだったが、それは小旅行ならではのたのしさで、旅行気分で町を見ているから目に見えるものすべてが新鮮に見えるからなのだろう。自宅の近所とかふだん行き慣れた町にもふだんは見過ごしているような素敵なものが無尽蔵に詰まっているに違いなく、ふだんの日常生活でももうちょっとまわりに目を向けてみようとそんなことをぼんやりと思って、なんとなく気持ちが清々としてきた。

鎌倉に寄って、いよいよ雨脚の強くなった小町通りをテクテク歩いて、いつもの鏑木清方美術館へ。目当ての「にごりえ」の挿画を全15枚凝視してただただ至福、泉鏡花の『註文帳』にあてて描かれた挿画集、『註文帳画譜』は引き出しのガラスケースでの展示で、何年ぶりかで間近で見ることができて、眼福続きでクラクラだった。小村雪岱が、《註文帳画譜》を清方から拝借して早く返さなければいけないのに眺めているうちに返すのが惜しくなって随分長い間借りていた、というようなことを書いていたのを思い出して、雪岱が眺めていた画譜が目の前にあるのかと思うと、さらに嬉しかった。先週、川越で雪岱の展示を見たばかりだから、なおのこと嬉しかった。

美術館のあとは通りがかりの木犀堂で今回も探していた本を(安く)買うことができて、そのめぐりあわせに大喜び。そのあと、別のところへ出かけて駅へ向かうべく歩いていてたまたま四季書林の前を通りかかって、何年ぶりかで足を踏み入れた。欲しい本がたくさんありすぎる! と迷った末、本を3冊買った。何年か前に訪れたときと同じように、店員さんはとても感じがよくて、静かな店内にはなにかのヴァイオリン曲が流れていて、なんて美しい空間だろうと心が洗われたひとときだった。会計のときにチラリとレジの横にクラシックのディスクが数枚立てかけてあるのが見えた。

展覧会メモ

  • 柳宗悦の民藝と巨匠たち展 /神奈川県立近代美術館 葉山館 *1
  • 小企画 斎藤義重文庫展 /神奈川県立近代美術館 葉山館 *2
  • 清方八景 第三景―明治の風俗の巻― /鏑木清方記念美術館 *3

購入本

  • 美術館たより「たいせつな風景」第1号(神奈川県立近代美術館、2004年3月)foujita2004-08-28
  • 斎藤義重文庫展図録(神奈川県立近代美術館、2004年)
  • 美術の「戦後」展図録(神奈川県立近代美術館、2000年)

ミュージアムショップでの買い物。美術館たよりの「たいせつな風景」は1967年11月に発刊されて1号で廃刊になって、その30年ぶりの復刊第1号が今年3月に出たばかり。命名は土方定一によるものだそう。巻頭は酒井忠康さんの「発刊に際して」で、巻末も同じく酒井さんの「想い出の展覧会から」という文章で、池内紀さん、松本竣介コレクションに関する学芸員さんの文章などなど、いかにもなセンスの、鎌倉近代美術館ファンにとっては嬉しいことこの上ない冊子なのだった。年2回発行を予定にしているとのことで、この冊子を入手し損なわないような頻度で、今後とも神奈川県立近代美術館へ足を運びたいものだと思う。あんまりに素敵だったので、斎藤義重文庫展の図録は迷わず購入で、過去の展覧会の図録もそそられるもの多々あって散々迷った末、麻生三郎の素描をあしらった「美術の戦後」展に決めた。この展覧会もあとで行き損ねたことをとても悔やんだものだった。図録を眺めて、「佐野繁次郎のエスプリ―戦後の装幀を中心に」というコーナーまであったと知ってびっくり。

  • 岡田八千代『若き日の小山内薫』(古今書院、昭和15年)

今年6月に岩波文庫で三木竹二の『観劇偶評』が出たのを機に、その周辺をいろいろ追っていたあとでちょっと興味が湧いて、京橋図書館で借りて読んで、思っていた以上に深い余韻だった。あとで月の輪書林の目録に出ていたことにも気づいたのだけれども申し込み損ねていて、今回ふらっと木犀堂で発見して大喜びだった。泉鏡花を中心に、水上瀧太郎、小村雪岱、久保田万太郎、鏑木清方が集っていた「九九九会」のメンバーでもある岡田三郎助の夫人が岡田八千代。清方美術館の帰りに見つけて嬉しい1冊というわけでもあった。

  • 戸川秋骨『自然・気まぐれ・紀行』(第一書房、昭和6年)
  • 折口信夫『恋の座』(和木書店、昭和24年)
  • 正宗白鳥『人さまざま』(新樹社・日本文学名作文庫、昭和21年)

四季書林にて。前から欲しかった戸川秋骨の第一書房本は今まで見たどこよりも安かったので、やっと機が熟したのだッと嬉しかった。長谷川巳之吉の第一書房から何冊も本を出している戸川秋骨、第一書房の趣味性にかなっていたのだと思うと、ますます戸川秋骨その人に興味津々なのだった。巻末に同じく戸川秋骨の第一書房本『英文学覚帳』の広告があって、内田魯庵の書評が添えてある。その文章のひとつひとうにうなずくことしきりで、この本もいつの日か読んでみたいものだ。内田魯庵は冒頭でまず『英文学覚帳』というタイトルの味わいについて書いているのだけれども、この『自然・気まぐれ・紀行』も実にいいタイトルだなあと思う。と、戸川秋骨の勢いにのって、前々から気になっていた折口信夫の『恋の座』を手にとった。以前、デカダン文庫で見かけて非常に迷っていて、こちらも今日やっと機が熟したといえる。戦前の「三田文学」の名編集長、和木清三郎が版元で、彼は戦後「新文明」を創刊する前にちょっとだけ出版業に手を出していたようで、同年に三田系の本を4冊刊行している。と、折口信夫を手にとったあとで、正宗白鳥を手にとって、いい感じの装幀だなあと思って名前をチェックすると、折口の教え子、伊原宇三郎だったので、因縁を感じて一緒に買うことに。