週末日記

今週は毎晩少しずつ、新日本古典文学大系『江戸歌舞伎集』所収の『御摂勧進帳』の脚本を読み続ける毎日だった。前に一度読んだことがあるはずなのに初めて読んだかのように、全編たいへん堪能。部屋にいながらにして気分は一気に江戸の芝居小屋。巻末の解説によると、安永2年11月の江戸中村座顔見世興行の本公演、『宴遊日記』別録に当時の観劇記録が出ているとのこと、『御摂勧進帳』読みの余韻にひたるべく検索してみたら、歌舞伎座ホームページに「観劇記録の『宴遊日記別録』」なる記事(http://www.kabuki-za.com/syoku/no8.html)があって、さらに当日の芝居茶屋での食事の再現(http://www.kabuki-za.com/syoku/no12.html)まであって、臨場感たっぷりでにっこり。

展覧会メモ

  • 特別展 柳宗悦と朝鮮の工芸 / 日本民芸館 *1

今年は夏休みが細切れで休暇という感じが全然しない、そんななかでも少しは夏休み気分を味わうべく行楽しようではないかと、日曜日の午後、ひさしぶりに日本民藝館へ。渋谷のデパートの地下でサンドイッチを購入、駒場公園の木陰のベンチでちょっとしたピクニックだった。炎天下の午後の屋外でも木陰だと涼しい風が吹いてきて、木々がとても心地よくて、つい長居してしまった。鎌倉文学館といい庭園美術館といい、邸宅のお庭はいいなあ。たまにでもこうしてのんびりする午後があるといいなと思う。と、なかなか立ち去りがたかったのをえいっと、いざ民芸館へ。《柳宗悦と朝鮮の工芸》展の最終日、いつもながらに、あちこちの椅子に何度も座ってのんびりしつつ、入り口に置いてある団扇片手に全展示を練り歩いた。主役の李朝陶器の質感とか文様の色をいろいろ凝視したり、民画の文字絵もあちこちでおもしろい。いつもの展示物の伊万里の蕎麦猪口とか豆皿がいつもながらに愛らしくて、それから、今回は、濱田庄司や河井寛次郎、バーナード・リーチといったおなじみの面々の展示をたいへん満喫。このあたりのことをちょっと強化してみようと思った。河井寛次郎は先日松涛美術館での展覧会を見逃したばかり、と、松涛美術館では悔恨続きなので、現在開催中の瑛九展は見逃さないようにしたいところ。


購入本

民芸館のあとは西荻でビール。の、その前にちょいと古本を見に行った。思いたってひさしぶりに盛林堂書店に行ってみた。西荻は夜遅くやっている音羽館やゴゴシマヤばかりに行っていて1年以上ごぶさたしていたけれども、いかにも昔ながらのよき古本屋さんという趣きの盛林堂書店も好きなお店。と、ひさしぶりの盛林堂で、合計数百円のささやかだけどたいへん嬉しいお買い物をした。ほかにも欲しい本があったので、また近いうちに出かけるとしよう。

  • 宮田重雄『竹頭帖』(文藝春秋新社、昭和34年)foujita2004-08-08

『自由学校』をはじめとする獅子文六の挿絵画家、「いとう句会」の同人、「文壇句会」で徳川夢声とナイスなトークを繰り広げていたり、などなど、いろいろな局面で遭遇する画家兼お医者さんの宮田重雄は前々からとても気になる人物だった。戸板康二の「ちょっといい話」にも時折登場している。と、重亭・宮田重雄の著書の存在は盛林堂書店の書棚で初めて知った。今まで探そうと思えばいくらでも探せたはずなのに、しっかり著書もあったなんてと目から鱗だった。値段は当時の定価と同じ250円、しかも献呈署名付き。吉祥寺在住だった宮田重雄の本が隣駅の西荻窪の昔ながらの本屋さんで見つかるというのがいかにもという展開で嬉しい。わが書架の「いとう句会」コーナーに新たな1冊が! と意気揚揚と購入。

この本は「西日本新聞」での毎日3枚の百日随筆の連載が元になっている。あとがきによると、その連載を福原麟太郎がたのしみに読んでいたということを宮田重雄本人に車谷弘が伝えたという。当時、宮田重雄は福原麟太郎とは面識がなく、とても光栄に思ったという。そんなこんなで車谷弘のいた文春から本書刊行の運びになったようで、ここに登場する三者全員のファンとしてはなんとも嬉しいエピソードだった。「西日本新聞」での連載エッセイというと、昭和37年に戸板康二も連載している。三月書房の小型本での戸板さん最初の1冊『ハンカチの鼠』の冒頭を飾っていて、そんな「西日本新聞」つながりも嬉しい。それからさらに、「竹頭帖」というタイトルは、昭和15年頃に岩佐新の肝いりで油絵画家の水墨の会をつくることになって、その命名を頼まれた宮田重雄が「いとう句会」の水中亭・内田誠に相談したところ言下に「竹頭会にしなさい」と言われたことに由来するという。「竹頭」というのは、当時内田誠が傾倒していた幸田露伴の蝸牛庵に通って聞き書きをメモしていた際に露伴翁から聞いた話が由来になっている。その内田誠による『落葉抄―露伴先生に聞いた話』という本を以前国会図書館で見たことがあり、その「竹頭」の話も覚えていたので、ワオ! と宮田重雄の本を見つけただけでも嬉しいのに、自分自身の気まぐれな「いとう句会」探索にもつながっていたわけで、こんなに嬉しいことはないという感じだった。露伴に傾倒していた当時の内田誠のもとには戸板康二がいたわけで、しみじみいろいろつながるなあと思う。

と、そんなわけで極私的にたいへん嬉しい1冊だった。あとがきに登場する福原麟太郎、福武書店発行の『福原麟太郎随想全集』の端本も『竹頭帖』の近くにあった。この「随想全集」は古書展などで安かったら少しずつ買いたいと思っているのだけれども、まだ1冊も持っていない。けれども、この日、古本屋さんの店頭でこの選集の編者の名前が井伏鱒二・河盛好蔵・庄野潤三となっているのに初めて気づいて、なんて見事な並びだろうと思った。わたしの一番好きな本は、福原麟太郎が愛読している人々および福原麟太郎をとりまく人々に尽きるのかも。キーパースンは福原麟太郎だ! と思うことがとても多い。

  • 海野弘『世紀末の街角』(中公新書、昭和56年)
  • 廣末保『四谷怪談』(岩波新書、1984年)
  • 安田武『昭和青春読書私史』(岩波新書、1985年)

今回もちょっとよさそうな新書を1冊150円で拾った。前に買ったばかりの新書の見返しで見つけて、これは欲しい! と思った、安田武『昭和青春読書私史』がさっそく見つかって嬉しい。安田武は、2000年夏に歌舞伎座で『四谷怪談』があって次月には文楽で『仮名手本忠臣蔵』の通しだ、というときに、浅草の古本屋さんで朝日選書の『忠臣蔵と四谷怪談』という本を見つけて、おっ、これはおあつらえむきだと意気揚揚と購入したときに初めてきちんとその名を知った。『忠臣蔵と四谷怪談』は全編、鶴見俊輔と安田武の同い年対談。目当ての鶴見俊輔よりもむしろ初めて知った安田武がとても面白かったと記憶している。といっても記憶はあいまいなので、もう1度とっくり読んでみるとしよう。月の輪書林の過去の目録でも「私家版・安田武」というのがあって、未見なのでどんな目録なのかとても気になる。といっても、安田武の著書は読んだことがなくて、今回買った『昭和青春読書私史』は、『昭和東京私史』の姉妹篇という位置付けなのだという。安田武『昭和東京私史』(新潮社→中公文庫)は前々から非常に気になりつつも、いまだ未読。近々古本屋で発掘したいものだ。……などと、急にメラメラになってきたのは、さっそく読んだ『昭和青春読書私史』がとても面白かったから。水上瀧太郎の章があって「おっ」だった。水上瀧太郎は『貝殻追放』を読んだときはとても鮮烈で一気に大好きだったけれども、その後に数冊読んだ小説がどれもこれもあまり面白くなくて(『大阪の宿』は『貝殻追放』の延長というふうにわりと楽しんだが)、つまらない小説を立て続けに読まされた恨みというのは意外にも根が深いようで、なんとなく熱が冷めてしまっていたのだった。と言っても、水上瀧太郎にまつわるあれこれはとても面白いことにかわりはないので、また追求してみようと思う。