神保町寄り道日記

三連休のとある日、ひさしぶりに池袋のジュンク堂へ行った。深い考えもなく単に人のあとをついていっただけなのだったけど、ひさしぶりに長居してみると、やっぱりとてもたのしくて、これまでもらった無料コーヒー券が何枚もたまっているというので1枚もらって、初めて喫茶コーナーでのんびりもして、そんなこんなのいかにも連休という感じのゆったりした時間だった。かつて、池袋に出かけるのは例外なく ACT で映画を見るというときだけで、その帰りにリブロで本を見るのが毎回のおたのしみだった。ルビッチやカサヴェテスを何本も初めて見ることになった映画館ということで心に刻まれている、池袋の ACT はいつのまにかなくなってしまったけれども、しばらくたって新文芸坐がオープンしたころはジュンク堂も誕生していて、また以前みたいに本屋さんと映画館のセットでの池袋行きが復活するのかもとよろこんでいたものだった。とは言うものの、池袋はあいかわらず苦手で、出かける機会は結構少ない。と、なかなか出かける機会がない分、たまにジュンク堂に来るとそれだけでものめずらしくて、たまに来るといろいろ観察して思う存分たのしむ。「観察」ばかりで「買い物」というわけではないところがしょうこりもなくセコいけれども、「こういう本があったのか!」と遅ればせながら知るという機会が必ずある本屋さんなのだった。今回もいろいろと心に刻んだ。

いろいろ心に刻んで連休が明けて、さっそく神保町へ寄り道。朝のラジオですでに「日中なるべく外に出ないで下さい」とまで言っていた史上最高気温のジリジリした1日、日没直前の神保町も心なしか人かげが少なかった気がする。

購入本

  • 酒井忠康『その年もまた 鎌倉近代美術館をめぐる人々』かまくら春秋社(ISBN:4774002615foujita2004-07-20

連休のジュンク堂で発見してびっくりだったのが、この酒井忠康さんの本。土方定一の薫陶を受けて長らく鎌倉の近代美術館で仕事をしていて、やがて館長に就任、今年3月に退官されて、現在は世田谷美術館の館長をなさっているという。その鎌倉近代美術館を退くにあたっての回想記という体裁の本で、今まで見逃していたのはとんだドジだった、とジュンク堂の美術書コーナーでワオ! となった。すぐさま購入したいところだったけれどもこういう本はぜひとも書肆アクセスで買いたいと思って、連休明けにさっそく出かけた次第。

わたしのひそかなたのしみが小沢書店発行の単行本集めで、安く売ってないかしらと売ってそうなお店にいくたびに虎視眈々と目を光らせている。小沢書店で何冊も刊行されている酒井忠康さんの著書は今のところまだ1冊も持っていなくて、図書館で借りて少しずつ読んでいる。こうなったら京都の三月書房に出かけて買いたいなと近いうちにぜひとも関西旅行を実行にうつしたいなと思っているのだったが、小沢書店の酒井忠康著書蒐集にさきがけて手にすることになった『その年もまた』には、図書館で借りて読んだ小沢書店の本ですでに読んだことのある文章がいくつかあったので、酒井忠康ダイジェストというつくりにもなっていて、この本が初めて手にすることになった酒井忠康著作となったのもひとつの巡り合わせだなあという気がした。

正式名称は神奈川県立近代美術館(http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/index.html)だけど、鎌倉近代美術館という名称の方がしっくりくる。ここ何年も鎌倉が好きで年に何回か出かけているというのに、この美術館に初めて出かけたのはずいぶん最近の、開館50周年記念の2001年の岸田劉生展のときだった。今まで出かけなかったのはとんだドジだったとさっそく後悔の、一度行っただけで大のお気に入りの美術館となった。ほどなくして出会ってメロメロになった洲之内徹の「気まぐれ美術館」シリーズで、さらにこの美術館が気になるようになった。土方定一がちょくちょく登場して、土方定一という存在も気にかかるようになった。洲之内徹の「気まぐれ美術館」にじんわりとひたっていると、「鎌倉近代美術館好み」というのがおのずとわかってくる。その「鎌倉近代美術館好み」というのがしみじみいとおしい。今年も麻生三郎と松本竣介の展覧会に大喜びだったことも記憶に新しい。

……などと、ついだらだらと書き損ねてしまったけれども、洲之内徹を読んで気になりつつも今まで特に追求はしてなかった土方定一という存在、一連の「鎌倉近代美術館好み」の系譜、などなど、いろいろと刺激的でこういう本が刊行されていたという幸福を思う。『その年もまた』には洲之内徹に関する文章もあり、もちろん土方定一に関する文章もある。鎌倉に行く度に必ず足を踏み入れる古本屋さんの芸林荘が登場したり、小沢書店の社主・長谷川郁夫さんの著書『われ発見せり―書肆ユリイカ・伊達得夫』で知った森谷均に関する文章があったり、と、さっそく「おっ」の連続。

夏休みのお出かけ計画は、すでに神奈川県立美術館の葉山館に決定している。今までずっと行き損ねていたのだった。《柳宗悦の民藝と巨匠たち展》のみならず、図書室も非常に気になるところ。「仲田定之助文庫」というのがあるなんて! 


と、そんなわけで、夏休み前に、「鎌倉近代美術館好み」研究のようなものをしておこうと、酒井忠康著『その年もまた』の勢いにのって、東京堂で前々から気になりつつもずっと買い損ねていた、『小さな箱』を突発的に買うことに。急に気運が高まって、ずっと気になっていた本を入手できたのが嬉しい。本当は東京堂では『小沼丹全集』を買う予定でいたのだけれども、『小さな箱』でお金がなくなってしまって、勢いにのって他の本を買うことに。

  • 『小さな箱 ―鎌倉近代美術館の50年』求龍堂(ISBN:4763001337
  • 中込重明『明治文芸と薔薇―話芸への通路』右文書院(ISBN:4842100419
  • 中込重明『落語の種あかし』岩波書店(ISBN:4000024213

喫茶店に長居して、買ったばかりの本を読みふけって、外に出ると、あいかわらずねっとりと暑い夜だった。爪の先ッぽみたいな月が浮んでいた。