伊勢丹の古本市

お正月休み一日目。朝目が覚めると、今日はツンと寒い。しばらく寝床でぬくぬくとバッハの《クリスマス・オラトリオ》1枚目を聴いた。顔だけがどんどん冷えてくる。けど、快晴でよい気分。やっとのことで寝床を出て、家事一通りを済ませて、いそいそと外出。


お正月休みになったら、ふだんはなかなか足が向かない、憧れの古本屋さんへ出かけようと前々から思っていたのだが、或る日、何の前ぶれもなく、伊勢丹の古本市の目録が送られていて、まさかの強敵出現と相成った。伊勢丹の古本市は今年の夏休みに出かけたのが初めて、頼んでもいないのに目録が送られてきてほんの気散じに眺めていたらうっかり申込みのハガキを書いてしまい、しょうがなく出かけてみたら、目録のほかにもとてもよいお買い物ができて、大満足だった。そんな甘い思い出のある古本市、その誘惑には勝てそうもない。それに、今回またもや目録でうっかり1冊申込んでしまったのでもうあとにはひけない。憧れの古本屋さんには、お正月明けに出かけようと思う。

今回も伊勢丹の古本市、とてもたのしかった。古本市に長居したあとすぐに伊勢丹の他の売場を練り歩けるという立地がなによりもすばらしい。買った本も伊勢丹の例のチェックの紙袋に入れてくれるので、古本市帰りの人だと察せられることなく一般市民のように振るまうことができるところが実にいい。

以下、お買い物メモ。

  • 久保田万太郎『道芝』(友善堂、昭和2年)

万太郎の第一句集。芥川龍之介の序文付き。目録で「花柳章太郎宛て署名付き」となっていて、思わずうっかり申込んでしまい、見事当選。おそらく他に申込んだ人がいなかったのであろう。花柳章太郎と万太郎の交流というと、大正の「句楽会」という句会がある。二長町の市村座の田村寿二郎を中心にしたもので、戸板康二の『久保田万太郎』を通して前々から気になっていたくだり。『道芝』のあとがきで万太郎は、《所詮はああでもないの洒落が嵩じてのうえに違いなかったものの、一度が二度と催しを重ねるうち、うそから出たまことに誰もみんな夢中になった。》というふうに書いている。戸板さんによると、花柳章太郎の『がくや絣』が「句楽会」の好資料とのこと、古本屋でよく見る本なので近々チェックしてみよう。芥川の自殺がひとつのきっかけになったという中篇小説『春泥』に登場する若宮は花柳がモデルという説もある。久保田万太郎に夢中になったのは『春泥』がきっかけだったし、『春泥』を初めて読んだのは2年前の今頃の季節、なにかと感慨深い。すっかり万太郎にイカれている。また高い本を買ってしまった。

  • 洋酒マメ天国19『サントリー談話室』
  • 洋酒マメ天国20『エチケットの稀本』
  • 洋酒マメ天国21『洒落笑事典』江國滋

foujita2003-12-27
3冊セットの箱入で1000円。なんとなくお買得感、と軽い気持ちで購入。こんな感じに、たまにひょいと「洋酒マメ天国」を買う機会がめぐってくると嬉しい。前から欲しかった江國滋が目当てだったけれども、『エチケットの稀本』は山口瞳がインタヴュアーになって高橋義孝に紳士の心得をいろいろ伺うという体裁で、にんまりがとまらない。そして、『サントリー談話室』がまたすばらしい。朝日と日経で連載されたエッセイで、酒友だち同士の往復エッセイ。戸板康二&池田弥三郎コンビも掲載。河上徹太郎&吉田健一、桂文楽&安藤鶴夫、先ほどの山口瞳&高橋義孝ももちろんあり。堀田善衛と芥川比呂志という同級生コンビもあり。目当ての江國滋もお得意の落語ネタが充実していて、この人の落語の文章はブリリアント! といつも思う。もっとたくさん落語本を書いてくれればよかったのだけども。

  • 里見とん『本音』(小川書店、昭和14年)

志賀直哉装幀の短編集。500円なのでわーいと購入。

  • 「あまカラ」第99号、1959年11月
  • 「あまカラ」第100号、1959年12月

一昨日初めて「あまカラ」を手にしたと思ったら、またもや入手。書肆ひぐらしのところで1冊300円だった。ざっと立ち読みして戸板康二掲載ものだけを手にとった。「演技の食物誌」というエッセイを連載中で、『芝居国・風土記』に収録されている。いかにも「あまカラ」に似つかわしくて、実に巧い!

  • 渡辺一夫『随筆 うらなり抄』光文社カッパ・ブックス、昭和30年

同じく書肆ひぐらしで100円。渡辺一夫というと、さる方に「羽左衛門に似ているとよく言われ、さすがに本人もまんざらではなかったらしい」ということを教わって、え〜、うざえもん〜! とびっくりだった。そのことがずっと気になっていたので、さっそく著者近影を確認。羽左衛門に本当に似ているかはわたしには判断がつかない。有識者のご意見を伺いたいものだ。でも、たしかにたとえば実盛の扮装がいかにも似合いそうではある。……などと、つい顔ばかり見てしまうのだけれども、ちょっと渡辺一夫を読みたいなと思い続けていたところだったので、よかった。

  • 清水一『窓のうちそと』ダヴィッド社、昭和32年
  • 清水一『すまい読本 人の子にねぐらあり』文藝春秋、昭和29年

近頃また「暮しの手帖」諸々で再燃していた清水一の本をひさしぶりに買った。『窓のうちそと』は著者自装でなかなか素敵。建築エッセイはもちろんのこと、東京随筆なども収録されているのでとてもたのしみ。『すまい読本』の方は佐野繁次郎の装幀。ユトレヒトの佐野繁次郎展の冊子(すばらしい!)で初めて存在を知って、前々から気になっていた。『窓のうちそと』の隣に並んでいて、2冊セットで引っこ抜いた。この人、文章のみならず、写真や挿絵もそこはかとなくいい感じで、好きだなあ。